住まい
北海道の住まいづくりガイド② 施主と建築関係者の立場と役割、基本制度

・それぞれの法律がどのようにはたらいているのか?
・施主と各建築関係者にはどのような責務が課せられているのか?
・住宅のチェック体制がどのようになっているのか?
このような点がみえるように、全体図を家づくりの流れにそって解説します。(公開日:2018年8月1日)

住宅の基本制度全体図

 

以下の図は、住宅の基本制度を構成する建築基準法、建築士法、品確法、住宅瑕疵担保履行法の作用関係、そして建築主、建築士(設計者・工事監理者)、施工業者といった建築関係者の責務を体系的に示したものです。

少し複雑ですが、全体を一望できるように作成しています。

 

住宅の基本制度の全体図と流れ

 

住宅の基本制度の流れ-設計から引き渡しまで

 

上図の基本制度の流れを、順を追って説明します。


①建築士に設計を依頼
建物の用途・規模に応じた資格を有する建築士による設計でなければ、その工事を行うことができないことになっています。(建築基準法5条の6)
一般的な戸建て住宅であれば、2級建築士または1級建築士の設計となります。
    
②設計図書の作成
依頼を受けた設計者は、法律に適合した設計図面を作成しなければいけません。(建築士法18条)
作成した図面を工事請負契約の契約図書および建築確認申請書の図面に用います。
    
③施工業者選定・工事請負契約
施主は工事施工業者を選定し、工事請負契約を締結します。
    
④工事監理者の選任
施主は建築士である工事監理者を定めます。(建築基準法5条の6)
なお、工事監理者の建築士の資格は設計に必要な資格と同じ資格になります。
    
⑤建築確認申請
施主は設計図面を添えて確認申請を自治体(または確認検査機関)に申請します。(建築基準法6条)
確認申請書は施主と設計者の記名・押印により申請します。
    
⑥確認済証交付
自治体(または確認検査機関)は、提出された確認申請を審査し、建築基準法(関係規定含む)に適合していることを確認した場合は、確認済証を施主に交付します。(建築基準法6条)
    
⑦工事着手
確認済証の交付を受けなければ、工事に着手できません。
    
⑧工事監理
工事監理のもとに、工事が図面どおり行います。

工事監理者は工事施工者に対し工事を図面どおり行うよう指示し、図面どおり行わない場合は指摘し、それに従わない場合は建築主(施主)にその旨を報告することになっています。(建築士法18条)
    
⑨工事監理結果の報告
工事監理工事監理者は、工事監理が終了したら、直ちに施主にその結果を書面(工事監理状況報告書)で報告しなければいけません。(建築士法20条)
    
⑩完了検査申請書「工事監理の状況」作成
工事監理者は、部位・材料ごとに工事と設計図面との照合状況や照合結果などの「工事監理の状況」を完了検査申請書第4面に記載します。(中間検査がある場合も同様)
    
⑪完了検査申請
施主は、⑩で工事監理者により「工事監理の状況」が記載された第4面とともに完了検査申請書を自治体(または確認検査機関)に申請します。(建築基準法7条)
完了検査申請書は施主と設計者の記名・押印により申請します。
(中間検査がある場合も同様)
    
⑫検査済証交付
自治体(または確認検査機関)は、建物を検査し、建築基準法(関係規定含む)に適合している場合は、施主に検査済証を交付します。(建築基準法7条)
    
⑬引渡し、使用開始
    
⑭10年保証
引渡し後10年間、施工業者は重大な欠陥について瑕疵担保責任を負います。(品確法第95条)
工事施工者は瑕疵担保責任の確実な履行のため、そのための専用の資金を確保するか、これに代わる保険に入る必要があります。(瑕疵担保履行法第3条)
→これにより、施工業者が倒産しても損害が回復されることになります。

 

この仕組みは必ず適用されます

 

上に示す仕組みは、法律で施主や建築関係者に課される義務を中心に示したものです。これは、当事者それぞれの意思に関係なく、必ず果たさなければいけない全国共通のルールとなっています。(上記の順番とならない場合もあります。)

また、ハウスメーカー、工務店、建築家、どの会社に依頼しようと、どのような工法で建てようと、この最低限の仕組みは必ず適用されます。まず、これが住まいづくりの流れの基本になっていることを頭の片隅に置いておきましょう。

建築基準法-電子政府の総合窓口(e-Gov)
建築士法-電子政府の総合窓口(e-Gov)
・品確法:住宅の品質確保の促進等に関する法律-電子政府の総合窓口(e-Gov)
・瑕疵担保法:特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律-電子政府の総合窓口(e-Gov)

 

この仕組みから読み取れるもの

 

以上、説明した住宅の基本制度から、何を知るべきでしょうか・・・。

公的機関と建築士によるチェック体制、そして10年保証という最低限の安心は確保されているということはわかりましたが、この仕組みは、もう一つ大切なことを示しています。

それは、施主(建築主)も、建築生産に主体的に関わっているということです。

つまり、住宅の安全・安心を果たす役割は、建築関係者だけにあるのではないということです。

 

施主(建築主)の選択責任は0ではない

 

体系図から、施主(建築主)が建築関係者(設計者、工事監理者、工事施工者)を選定していることや、住宅を建築基準法に適合させる責任があることがわかります。

一般的には、設計・監理・施工一式を請け負う住宅会社を依頼先として決定・契約する時点で、こうした施主の責任・主体性をほとんど意識することがないまま、建築関係者のすべてがほぼ自動で決まります。

しかし、施主(建築主)が意識するかどうかにかかわらず、全ての建築関係者を自ら選択している事実に変わりはなく、その選択責任は必ずついてまわります。

住まいづくりの教科書で「住宅会社をしっかり選びましょう」「住宅会社選びが家づくりで最も大切」とさかんにいわれているのもそのためです。

「自分は素人なのだから全く悪くない・・・」

「安全に建物をつくるのは業者の責任だ・・・」

もちろん消費者という立場で見るとそうした主張はもっともなのですが、法律の体系から見ると、むしろ責任の主体は施主(建築主)にこそあるのです。

施主(建築主)が法律に適合した建物をつくる当事者であり・・・そのために依頼先を決め、契約によりそれを遂行してもらっている・・・この構図は注文住宅特有のもので、すでに建っている住宅や自動車を購入するのと大きく違う点です。

この大きな違いを理解する、つまり、当事者意識を持ちながら家づくりをすることがとても大切なのです。

 

当事者意識、自己責任感が良好な信頼関係をつくる

 

そうした意識がない状態で家づくりをしていると、結果責任のすべてを相手に求めることになり、住宅会社との不毛な論争をまねいたり、解決できることもそれを遠ざけることになってしまいます。

当事者意識を持つのは非常に難しいことではあるのですが、この体系を知ったことを機会に、施主(建築主)と建築関係者それぞれの立場、権利義務を意識した上で契約当事者として相手に向き合うようにしてください。

それによって、互いにできること、やらなければいけないこと、やってはいけないこと、配慮しなければいけないことが意識されるようになり、要点を押さえた打合せができるようになってきます。

こうした相互信頼を積み重ねることによって、契約の円滑な履行が促され、納得いく家づくりの基礎がつくられるのです。

 

関連リンク

 

以上、住宅の基本制度と施主(建築主)の立場について説明しました。

なお、上図の説明で、工事監理者が施主にとってとても重要な役割を果たしていることがお分かりいただけたと思いますが、これについて、さらに詳しく解説します。
→ 工事のチェックマン工事監理者について理解しましょう


また、基本制度に加え、さらに、住宅の付加価値や安心感を高めるために施主が選択できる住宅制度について説明します。
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